活動報告

◆パネルディスカッション 「東京の緑の今、そしてこれから」 
各委員がそれぞれの立場から考えた東京の緑についての想いを、参加者の皆さんと共有しました。
    • パネラー :
    • 横張 真 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授)
    • 大塚 高雄 (東京港埠頭株式会社公園事業室 部長代理、元東京都都市整備局参事)
    • 池邊 このみ(株式会社 ニッセイ基礎研究所 上席主任研究員)
    • 牛込 源晃 (足立区の保存樹を守る会 会長)
    • 内田 市五郎(一般財団法人 練馬みどりの機構 副代表理事)
    • 佐藤 留美 (NPO法人 NPO birth 事務局長)
    • コーディネーター :
    • 澁澤 壽一 (NPO法人 樹木・環境ネットワーク協会 理事長)
  • 内田市五郎 ~周囲の皆さんの手助けが必要~
    屋敷林の維持はきれいごとだけではありません。特に12月の約2週間は、落ち葉が雪のように降りますので、ご近所にご迷惑をおかけしていることは重々承知しています。以前は自分で一生懸命やっていましたが、そうすると、ご近所も掃除しなくちゃいけないというプレッシャーになるようで、今はシルバーセンターに頼んだり、ボランティアの方に来ていただいたりしています。 周囲の皆さんのご理解や手助けがあってこそ、守れる緑があると感じています。

  • 牛込源晃 ~屋敷林で焼き芋のイベントを~
    足立区の保存樹林に指定された屋敷林を子供達に開放して40年になります。年に1度のささやかなイベントですが、落葉焚きをかねた焼芋会などを、近所の子供会が主催して行っています。遊びに来た子供達が感想を書いてくれたノートがたくさん残っていて、昔、遊びに来た子供が親になってまた来たりします。ただ場所を使っていただいているだけですが、所有する屋敷林が子供達を育てる場、人と人とのご縁をつなぐ場になればと思っています。

  • 大塚高雄 ~緑を守ることが社会の発展に繋がる~
    屋敷林の所有者の話を聞きますと、いろんな問題があるのですが、まず保全に関する制度や仕組みの情報がほしいという話が多く聞かれます。そういった声を行政に届けるルートを整備することも、将来会議のひとつの使命ではないかと思っています。また、今ある緑を守るという意識は受身的で後ろ向きな印象があるので、緑を守ることが社会の発展につながるという考え方も必要だと思います。たとえば今、里山を日本の資源としてアピールしていこうという動きがありますが、このような価値観の創造も非常に重要ではないかと考えています。

  • 池邊このみ ~緑の存在意義は美しいことも重要~
    私は大学で造園学を志し、初めて行ったのが東久留米でした。ケヤキの屋敷林があり、落合川と南沢湧水群があり、池袋からわずか20分のところにこんなに豊かな自然があると、すごく驚いた記憶があります。 東京の緑は単調だというお話もありますが、山岳から丘陵地、平地と丘陵地の間の崖線、玉川上水や神田川、臨海地区と様々な景観があります。また都心部には江戸時代の大名屋敷の跡である新宿御苑や明治神宮、有栖川記念公園などがあり、これらの緑地では多種多様な動植物が観察されています。東京の緑の景観は、思ったよりずっと豊かなのです。 緑の存在意義にはいろいろありますが、私は美しいことも重要な要素だと思っています。美しい景観と緑、ふもとには水がある。そういったものを皆で残していきましょう。

  • 佐藤留美 ~「地みどりマップ」にみる様々な緑保全活動~
    私は15年前に緑の街づくりのNPOをつくり、市民の活動をサポートしています。これは「地みどりマップ」と呼んでいるものですが、東京都内で実際におこなわれている様々な緑を守る活動を集めたら、こんな町ができるという絵です。駅前でアイデアいっぱいの花壇づくりをしているNPO。コミュニティーセンターできれいな花壇をつくったり、育てた苗を市民に配ったりしている団体。他にも、ビオトープガーデンをつくっている小学校や、車椅子でも楽しめる花壇をつくっている病院や介護施設、アフターファイブに社員がハーブガーデンをつくっている企業など、様々な活動が描かれています。また、遊休農地や放置林、屋敷林をどうすればいいかわからなくて困っている人がいたら、森が好きな住民をコーディネートし、専門家を紹介し、勉強会を開いたり、保全活動をおこなったりする活動も進めています。何もしなければ税金を払うために宅地化される緑も、皆が関わる仕組みをつくれば残せるはず。私たちはそう確信しています。

横張 真 ~一緒に考えて1+1を3にしよう~
ウィーンでは樹木はすべて市に登録されていて、勝手に切ると周囲の住 民から苦情がくる。それくらい樹木に対して強い愛着をもっています。落 ち葉は分別収集して堆肥化するシステムが稼動しており、そういう裏づけ の中で緑を大事にしていることがたいへん印象的でした。日本でも、地権 者の好意や住民の理解に依存するのではなく、そうしたシステムが必要なのだと思います。

一方で、地域の人と一緒になって焼き芋を食べるという牛込さんの話は、まさに地域ガバナンスそのものではないかと思いました。同じような観点で注目されるのが、アメリカのデトロイトなどスラム化が激しい都市で、コミュニティ再生の一環として、空き地や廃墟に木を植えているという話。そこにそのコミュニティの人たちに来てもらって、一緒になっていろんな活動をしているそうです。日本でも、緑を通してコミュニティを再生する見本として理解できると思います。

様々な学部から先生方と学生が集まって、環境問題に取り組む中でわかったことのひとつが、お互いが主張しあって相手を論破し、勝ったとか負けたとか言っているようではだめだということです。この話は、「新たな公」に通じるのではないかと思います。すなわち、民対公、民対行政といった対立構造の中でがんばったり、主張や利害が衝突したときに相手の弱点をついて勝ち取ったりするのではなく、一緒になって考えましょう、一緒に考えて1たす1を3にしましょう。そういうスタンスを保つことが、「新たな公」を形成するうえで重要なのだと思います。