パネルディスカッション「緑の保全の現状と将来について」
参加者の皆さんからのご意見をいただきながら、緑の保全とその現状について話し合いました。
パネラー: | 荻野 豊 | (公益財団法人 トトロのふるさと基金 事務局長) |
惠 小百合 | (認定NPO法人 自然環境復元協会 副理事長) | |
佐藤 留美 | 佐藤 留美(NPO法人 NPO birth 事務局長) | |
コーディネーター: | 澁澤 壽一 | (東京の緑を守る将来会議 事務局長) |
- 澁澤:
まずは惠さんと佐藤さんの自己紹介を含めた、緑の在り方、
保全に対する考え方についてお聞きします。
- 惠:
- 認定NPO法人自然環境復元協会で、全国で活動されている方々に環境再生医という資格を取っていただき、その地域と環境を再生するためのネットワークづくりをしています。その根源には、「アリの目、鳥の目、イルカの目」で環境を見ようという考え方があります。自然を私たち人間の都合で考えるのではなく、地球規模で動いている渡り鳥の目で見て、ヒナを育てやすい場所か、立ち寄りたい場所かと考える。海で生きているイルカ達が敏感なセンサーで、この水の源流がある森はいい森だとわかるような森づくりがしたい。そういうことも考えています。
つくばエクスプレスの流山おおたかの森駅周辺には55haのオオタカが住む森がありましたが、伐採されて26haになりました。そこを復活させるような街づくりをして、そこで売り出す住宅地に認証マークをつけ、そのマークがついている家を買った人には銀行の利子を下げる。そういったウィン・ウィンの関係を作り、環境も経済も支えるエコプライド(エコの誇り)を持って動ける街づくり、森づくりができたらいいなと思っています。
- 佐藤:
- 1997年に立ち上げたbirthで、人や緑を「繋ぐ」「紡ぐ」をキーワードに、緑の中間支援という活動をしています。緑が残っている所をみると、自然を土台に社会コミュニティが成り立ち、その上に経済活動があるという共通点があります。ここ数十年、まずお金があって経済が回らなければならないという価値観が勝ってしまったのが、日本の現状です。私達はこの価値観を、自然があってこそ人間の生活があるというものに変えていきたい。実は皆そういう価値観を持っていて自然とつながっているのに、切れてしまっている。その繋がりをもう一回紡ぎなおしていきたいと考えています。
- 澁澤:
- 「価値観」と「繋ぐ」がキーワードのようですね。14団体のお話を聞いても、昔の風景に戻したい、生物多様性が豊かな生態系を作りたい、地域特有の草花や花木が楽しめる緑に変えていきたいなど、価値観は様々です。どうやって意見調整していったらいいでしょうか。
- 荻野:
とても難しい問題です。ある時、農家の人に指導されたボランティアが田んぼの脇の土手に生えてくる雑草を刈っていたら、突然近くを通っている人に「その草はキタテハという蝶の幼虫が食べる草だから刈ってはいけない!」と怒られたことがありました。その時は、昔ながらの里山を守るという価値観を共有できる人たちと一緒にやっていくしかないと思いました。ただ、黙っていてはお互いの考えが分からないままなので、自分たちの考え方や問題点を明確にし、共有していく作業は欠かせないと思います。
- 澁澤:
- 次に多いのは、世代が繋がらないという意見です。
- 惠:
- 若い人には、ひとつの団体に所属しないで色んな事を体験したいという人もいます。そこで提案ですが、各団体が誰でも参加できるようなプログラムを企画して、皆で募集するというのはどうでしょう。参加者の幅が広がるし、他団体が何をやっているかもわかります。色々なイベントに参加することでノウハウが蓄積されて、別の活動場所でそのノウハウを使えるという、チャンスとノウハウを共有化する仕組みができると思います。
- 澁澤:
- 広報をどうしたらいいかという質問もきています。
- 佐藤:
- 私達はまさにそういった広報(後方)支援をしています。スタッフの中にもデザインやHPを得意としている者がいますし、ボランティアを登録するところなどを活用してもいいでしょう。そのほかにも様々なバックアップをしていますし、行政や企業との繋がりも持っているので、色々なご相談に答えられると思います。
- 澁澤:
- 民間が知識や経験を持ち、自分達の地域をこうしたいと行政や研究機関に協力をお願いしたり、他の民間で活動している人達とも協力して事業を行っていく。昔とは随分姿勢が変わってきました。私が通っている中山間地域では、家族を食べさせるのは「稼ぎ」で、祭りや結(ゆい)といった、お金にはならないけど山村を維持するために必要なことを「仕事」と言います。仕事と稼ぎの両方ができて一人前です。都市に住んでいたら、全部行政任せにして「稼ぎ」だけを考えていたかもしれません。そろそろ次の世代の為にも、民間と行政、地域市民、企業が一緒になって、緑を守っていきたいと思います。
一極集中型でグローバルマーケットの中だけで生きてきた東京は、次の世代にどういうメッセージを残せるか、たぶん震災は、私たちにそれを考えろと言っているのだと思います。その意味でも、皆さんと世代を超えた交流を持ち、議論しながら前に進めればと思っています。本日は、ありがとうございました。
