あの町 この町 みどり探訪

足立区の緑散策

足立区は、四方を川に囲まれて、地形的に平坦な低地で、昔は湿地帯や荒地だったといわれています。このため、今見られる樹林地はお寺や屋敷林のように、人の手で植えられたものが大きくなったものと思われます。区の緑の実態調査によれば、区面積のうち、樹木で覆われた面積の割合は8%(428ha)とされ、そのうち65%は民間所有の土地です。市街化が進む中で、樹林をもつ地主さんは、意外と地道に昔の風景を引き継いでいます。今回は、区の職員の皆様のご協力を得つつ、こうした樹林地のうち、もっとも代表的な屋敷林と河畔林を歩き、緑の実態をリポートしました。
佐野いこいの森

下総の豪族、武蔵千葉氏の子孫、佐野家(はてな?1)の屋敷林で、面積は約0.7haあります。昭和49年に区の保存樹林(はてな?2)第1号に指定されました。スダジイ、ケヤキ、マテバシイ(はてな?3)など約30種、 約500本の樹木がうっそうとした森をつくっています。 また、遺構とされる構え堀(はてな?4)が周囲を囲み、林内には内堀も残っています。

◎ はてな?1 佐野家の歴史! ◎

千葉勝胤の子、新蔵胤信が佐野氏の養子となった家柄。 佐野家は、佐野新田の開発者であるとともに、関東郡代伊那氏に仕えました。北東部分には他よりも地面が高い場所があり、そこにある5つの石造物のうち1固体には銘文が確認され、この石造物は妙見神を祭った佐野家旧屋敷神基壇であることがわかっているよ。

◎ はてな?4 構え掘とは! ◎

侵入者から守るために、屋敷の周りに溝を掘り、水をためておいたものだよ。内堀とも言うよ。

◎ はてな?2 保存樹林とは! ◎

「樹木の一集団が占める土地の面積が300㎡以上」の条件を満たしている場合、持ち主は区に保存樹林の指定を申請できるよ。指定されれば、毎年維持管理費のための補助金などが出るんだ。
足立区役所ホームページ

◎ はてな?3 マテバシイ! ◎

敷地の北東部分にあるマテバシイは、大きい!高さは15mくらいあるよ。マテバシイは、首都圏では昭和40年代に緑化木として大量に使われていたけど、この森にあるのは、それ以前からのもの。これだけまとまって森となっているのは、珍しい!一見の価値ありだね!

歩いてみました

森を守るために、外周をフェンスで囲み、日時を限定して開放しています。

森の中は、木がたくさんあるだけでは親しみが生まれません。
老若男女が歩きやすいようにすることも大切です。

佐野いこいの森の入口です。屋敷林の緑は生態系な見方というよりは、身近に触れられる“鎮守の森”に近いところがあります。都会にある小さな森です。

運営の仕組み

このいこいの森と言われる区域は、佐野家本宅の周囲に位置しますが、この区域を当初、区が借りており、その後、これを数回に分けて買収しました。全体は区有地と借地になっており、森を守るための運営方法も以下のように色々と工夫されています。

  • ◆地権者(佐野家)は・・・ 週2回開放しており、園路部分のみ立ち入ることができます。以前はサギなどの野鳥がたくさんいましたが、一年中開放することにより、だいぶ減ってしまいました。森の自然を守るために、開放日時を限定しています。
  • ◆行政(足立区)は・・・ 区には「緑の協力員」という制度があります。彼らとともに竹藪を伐採し、ごみ拾いをして、森の再生と保全の手助けをしています。
  • ◆NPO (解説員)は・・・ 区と契約したNPOです。週2回の公開日に解説員として活躍しています。
  • ◆地域住民は・・・ 落ち葉を掃除するなど、昔からの緑を守っていく、心ある方々がいます。
    【保全活動の場】 近くの小学生が園内のスダジイのドングリを持ち帰り、蒔いて2、3年育て、佐野いこいの森に植樹をしました。お楽しみに畑も作っています。
◆ 運営を考える ◆

足立区は、この屋敷林を都市計画法上の「都市計画緑地」に位置づけ、大部分を買収し、貴重な緑を守ろうとしています。まずは、将来に向けて消滅の危機を回避するため、先手を打った、これは素晴らしいことです。一体性という意味では、残りの宅地や借地部分の問題はありますが・・・。緑の保全は、よく言われることですが、囲い込む(法などで将来にわたり存在を確保すること)だけでは価値を十分に発揮できません。何のために保全するのか、勘違いをしてはなりません。
緑は地域の生活や環境形成になくてはならないものとして(邪魔な存在ではなく・・・)心底から理解していただくこと、このために広く意義や機能を啓発し、行動を活発にしていく仕組みが重要になります。総論賛成、各論反対では、立ち行くことはできません。今、区の担当者がご苦労されて、右上のような構図で運営されています。ここの鍵は、地域の方々でしょう。ボランティアや子ども会などが、コミュニティ活動の一環として、自然を愛しむ、活用する、学ぶ、といったフィールドに使えるよう、人材の発掘を行い、求心力に必要なインセンティブやプログラムの検討を含め、改めて研究する必要があると感じました。

かけがわの樹林

足立区と埼玉県八潮市の境界となっている垳川(がけがわ)は、江戸時代初期まで綾瀬川の本流でした。中川まで繋がっていましたが、新綾瀬川の開削や中川との遮断で川の機能を失ったのです。垳川の足立区側の堤防には、長さ2.2kmに渡り、樹木が多数 植えられ、洪水による被害軽減と防風の役割も果たしていました。ケヤキ、シイ、カシ、ムクノキ、シロダモ(はてな?5)などの高木や サザンカ、などの中木が茂り、狭いながらも今では区内有数の見事な樹林地帯となっています。
今回は、神明北公園~むくの木広場といった西側と、虹の広場~水車広場の東側を歩いてきました。

◎ はてな?5 シロダモ! ◎

何のこと?シロダモとは、関東の山地や屋敷林でよく見られるクスノキ科の樹木です。シロタブとも言います。(葉の裏側で、白いのが特徴)アオスジアゲハの幼虫の餌(食草)となるので、この遊歩道でも飛び回っているとのこと。狭い樹林地でも、よく調べると色々な生き物がいるはず。それはそうです。ここは区内ではめったにない、生き物の楽園でしょうから。

遊歩道は、「神明・六木遊歩道」として約2.2kmの距離があり、東京都の「武蔵野の路」に指定されています。」(武蔵野の路は、東京都を周回して歩けるよう都が企画した遊歩道コース。21コースあり、実態は区市町村が管理している。)護岸等が作られたため、それまで約25mあった川幅は3分の1程度になりました。

宅地開発が迫っている場所では、落ち葉の苦情が出るため、境界の木は写真のとおり・・・、残念です。

川沿いには農家が何軒も残っていて、垳川の樹林、農家、 畑が織り成して、とても良い景観となっています。足立区の 特別景観形成地区(景観法や足立区景観条例に基づく)にも指定 されています。  いかにこの風景を将来に引き継いでいくかが、課題です。

◆ 課題を克服するためのチャレンジ! ◆

緑を守るためにはどうすればいいか、と行政と地元の方々とで年に3回程、落ち葉等を活用して焼き芋大会のワークショップを行っているそうです。昔からの地主さん達が多く参加してくれていますが、新住民の方々はいまひとつのようです。 近隣住民の皆さんの樹林に対する理解と協力がなければ、こうした緑は支えきれないでしょう。新住民への根強い声かけや自然の面白さを子供たちに伝えるようなプログラムを企画・実施することで、大人が引きずられて関心を持っていくような仕組みが必要ではないでしょうか。落ち葉はどこの地域でも苦情のNO,1!区は昨年から区の負担で雨どいの清掃助成を行うようにしていますが、やむを得ず、というところでしょうか。緑の恩恵にあずかっているという理解や意識が育っていないのが寂しい・・・・。

途中には、特に大きなケヤキがあります。幹周り周囲3mほどはありますか・・・、江戸時代からの贈り物です。緑道は土手沿いに歩けるようになっていますが、自然地としては物足りない面もあります。特に、土壌が露出しているところが大半で、もう少し下草を無理しない範囲で育てて欲しいところです。豊かな自然は土、水、緑がそれぞれの役割を担って初めて創造されるものと信じます。

遊歩道の東側にある水車広場。歩いてきた人が一休みする、ポケットパークです。独特の趣があります。

◆ 終わりに ◆

これらの緑地は、足立区や地主さん、地域の人々の力によって守られていることがよくわかります。こうした試みは、地域だけに埋没させないよう、広く知ってもらい、情報交換等によって都全体の継承運動につなげていく必要があると思います。取材チームもこうした点を念頭に置いて、これからも有用な事例を掘り起こし、提供してまいります。